9 厚生労働省「令和 3 年版厚生労働白書―第 9 章障害者支援の総合的な推進」 - 31 -十分な財源確保を必要とする負担軽減措置といった国の施策と併せて、子どもと子育てを取り巻く環境の改善には、地域性に応じたきめ細かな施策が欠かせません。核家族化の進展や生活スタイル、価値観の変化を否定的に捉えず、行政や児童相談所といった公的機関、学校、施設ばかりに対応を任せるのではなく、そして、家族という枠組みばかりにとらわれることなく、地域の様々な関係者が「我が地域の事」と関心を持って協働参画し、困っている子どもとその家庭を地域の福祉ネットワークにつなげていくことが求められます。 人口減少の進む社会では、労働力の減少と社会保障制度の持続性が課題です。新型コロナウイルス感染症の拡大によって、「エッセンシャルワーカー」に注目が集まるようになりましたが、人材の獲得競争によって福祉分野の人手が減ってしまうと、必要な介護サービスが社会に供給されなくなることで、いわゆる介護離職の増加を招き、経済力の低下にいっそう拍車をかける悪循環へとつながりかねません。 正規・非正規雇用者間の格差の拡大、低所得世帯の増加、社会適応が困難となる人の増加といった課題への取り組みも必要です。その影響下においても社会保障制度と経済力を維持できるか否かは、日本の社会機能と国力を左右する課題ですから、将来にわたる社会変化に応じた柔軟且つ実効性のある施策によって、あらゆる人たちが社会に参加でき、労働力を確保するとともに、心身が健康である限り働き続けられる意欲が維持される環境が求められます。 このように、介護(高齢者)、障害者、子ども、現役世代のための福祉サービスには、様々な課題のあることがわかります。しかし、ヤングケアラー、障害のある子どもの療育、虐待、人手不足に介護離職といった問題は、それらが単独で存在するのではなく、世代をまたいで相互に関連していることは否定できません。高齢者の社会参加を高めることで心身の健康の維持向上につなげるという取り組みは非常に望ましいものですが、どれだけ秀逸な取り組みも、それが、高齢者世代の中だけで完結してしまうと継続にはつながりません。時代とともに世代が入れ替わる以上、社会的に有用な活動にも多様性と新陳代謝が必要であり、常に次世代の人たちを巻き込みながら継承していく仕掛け作りが大切です。従来の制度に根差した縦割りの視点や施策からの脱却と、多世代の参加を意識した取り組みが求められています。 自分らしく生き、自分なりに社会に参加し、そして、自分らしい最期を迎えることを誰もが望みながら、それを、誰もが実現できているとは限りません。そのため、地域の様々な関係者によって、生きづらさを抱える人たちや最期を迎えようとする人とその家族への支援が続けられています。人、お金、物と社会資源の減少が加速する時代だからこそ、私たちは、「そういうことは、どこかの誰かがやってくれているだろう」と思われがちだった福祉の在り方に、「我が事」として目を向けなくてはならない事態に迫られているのではないでしょうか。本格的な人口減少社会の到来は、私たちがより望ましい形で人生を生き抜くための道を模索する必要性を突き付けているのかもしれません。 10 厚生労働省「ヤングケアラーの実態に関する調査研究(令和 3 年 3 月)」
元のページ ../index.html#31