かながわ福祉ビジョン2040(創立25周年記念事業)
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それには、大きくふたつの方向性を考えることができます。 ひとつは、いまある社会保障へのアクセスを強化する方法です。たとえば、障がいを持つ人たちに対して、支援計画を作成したり、関連機関との連絡・調整を行なったり、家族も含めて助言をしたりといった「相談支援」を充実する方法はどうでしょうか。 あるいは、義務教育というサービスにアクセスできていない子どもたちのために、学校にスクールカウンセラーを設置するという近年の動きもこれに含めることができるでしょう。さらにいえば、生活保護の申請を手伝ったり、住まいをなくした人たちの入居を手助けしたりする NPO 活動などに補助を行うことも検討に値するのではないでしょうか。 ただし、これらはあくまでも申請主義が前提であり、「申請しやすくする」というところに力点があります。ですから、どうしても、制度のすきまでつまずく人が出てきてしまいます。 これに対して、もうひとつの方向性は、医療・介護・教育・障がい者福祉、これらの万人が必要とする/必要としうるサービスを「ベーシックサービス」と位置づけ、すべての人たちに所得制限なしで給付をおこなうやりかたです。 ベーシックサービスをすべての人びとに保障できれば、生きていく、くらしていくための「必要(ニーズ)」から人間は解放されることになります。病気をしても、失業をしても、長生きしても、子どもをたくさんもうけても、さらには貧乏な家庭に生まれても、障がいを抱えても、すべての人たちが人間らしい生活を営めるようになるわけです。 ポイントは、申請した人を救済するのではなく、すべての人の生存・生活を権利として保障することです。万人が必要とするサービスを保障することで、「救済原理」とは異なる「保障原理」へと社会保障の根幹を変えていくのです。 急いで付けくわえますと、それでも働けない人たちの命をどう保障するかという問題は残されます。障がい者、高齢者、シングルマザー、失業者等の命の保障も大切な問題です。これらの人たちに対しては、十分な生活扶助、失業給付、そして先進国のなかで例外的に日本では制度化されていない家賃への補助(=住宅手当)を提供していく必要があります。これらは「最低限の保障」ではなく、「品位ある命の保障(decent minimum)」でなければなりません。 既存の社会保障へのアクセスを容易にし、基礎的な生存・生活への保障を強化する、これらは“Social Security(社会保障)”を超えて、“Life Security(人間性保障)”へと仕組みを進化させることを意味しています。この点については、また後ほど触れたいと思います。 22))上上下下関関係係のの壁壁::フフララッットトでで「「そそばばににいいるる」」のの関関係係へへ みなさんはお気づきでしょうか。「生活保護」「介護」「看護」「養護」、これらの聞き慣れた社会保障の用語には、すべて「護」=「まもる」という言葉が使われています。それだけではありません。たとえば、「支援」「介助」「援助」、これらも福祉の領域でしばしば耳にする言葉ですが、「介」「援」「助」「支」といったそれぞれの漢字には、「たすける」という意味がこめられています。 名は体を表すといいますが、こうした言葉の成り立ちは、「守ってあげる」「助けてあげる」といった上からの目線、垂直的な関係がサービスを供給するほうの価値観の根底にある可能性を示唆しています。 もう少し踏みこんでいうならば、社会保障がこのような価値観を前提としている以上、「権利擁護」というきわめて大切な考えかたも、「擁護してあげる側」と「擁護してもらう側」のように「上下の関係」を生み出してしまうかもしれない、ということです。 ちなみに、生活保護を英語に置きかえますと、“public assistance”です。“assistance”の語源はラテン語の“assistere”で、この言葉には、“stand by”、“take a stand near”という意味が含まれています。私たちが「助けてあげる」「守ってあげる」という上下の関係を言葉に含ま- 36 -せたのとはちがって、「そばにいる」という水平的なニュアンスがここではこめられています。守

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