- 48 -そのためには、地域における各種サービスを利用者本位で統合する工夫が求められます。同時に、当事者やその家族からの相談を断ったり、よそに回したりするのではなく、いったん引き取り、これを各部局につないでいくための環境整備が必要になります。 たとえば、福祉、教育、コミュニティの担当課が人を出して係をもうけ、個別の窓口に寄せられた声を、この係につなぐような仕組みづくりはどうでしょうか。ワンストップの総合窓口の重要性が叫ばれるようになって久しいですが、いわば役所の内側に、職員のためのワンストップサービスを整備するというアイデアです。 行政の以上の変化に対応して、事業者もまた、これまでの「〇〇福祉サービス」という看板を、「○○生活サービス」へと切り替えるくらいの発想が必要になるでしょう。事業者もまた、福祉ニーズから、利用者本位の生活ニーズへとサービスの内容を組み替えることが求められるのです。 ここで、高齢者の生活を包括的に支えていく仕組みについて考えてみましょう。 近年、日本版 CCRC の普及を求める声が強まっています。CCRC(Continuing Care Retirement Community)とは、高齢者が健康な状態で入居し、介護が必要になれば、サービスを受けながら人生の最期まで暮らすことのできる生活共同体をさしています。 ただ、本場のアメリカを見てみますと、これは富裕な高齢者からなる、社会と隔絶された“Gated Community”であり、日本版 CCRC でも一部の施設では、同様の傾向が観察されています。また、日本の場合は、地方創生政策の一環として実施されたことから、都市部から地方部への高齢者の移住、地域経済への貢献といった国の政策意図が反映されたという特徴もありました。 これに対し、スウェーデンでは、安心住宅やシニア住宅、コレクティブハウスなど、安価で質の高い集合住宅が提供されています。そこには、カフェ、図書館、運動室、屋上庭園などが設置され、住民自らがさまざまなコミュニティ活動を企画・運営しています。 スウェーデンのケースで注目すべきなのは、これらの集合住宅が公的な介護サービスと連動していることです。 まず、自治体が税で介護サービスを安価に提供しているため、コストが居住に必要な分だけですみます。第二に、医療の質や、社会サービス、介護職員の質、高齢者ケアの内容などを自治体が公表することで、自治体間の比較が可能となり、「質の競争」が起きています。第三に、施設が地域にひらかれ、世代をこえた交流が可能となっています。 事業者がこのような生活共同体を提供していくうえで、内と外をつなぐコーディネートの役割がポイントになってきます。つまり、先に触れた「ハイブリッドサービス」を差配する現場の人材育成が重要になるのです。 保険適用、保険適用外、専門特化サービス、専門的ではないけれども生活を支えるサービス、これらを柔軟に組みあわせながら、利用者に計画を提案できるような力をもったマネジャー人材を養成しなければなりません。そして、オランダやイギリスのように、その人たちが以上のような全世代型コミュニティに常駐できるような状況が生まれれば、理想的だと言えるのではないでしょうか。 ここで強調しておきたいのは、「福祉」は弱者のためだけのものではなく、誰にも必要な生活インフラだという意識を育てていくことです。 老後の豊かな暮らしは、福祉のニーズやサービスだけではなく、家族や友人、あるいは趣味や地域活動などとの付きあいかたによっても大きく左右されます。「生活サービス」の視点からは、
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