- 50 -ていくことは、ケアワーカーの尊厳を守り、福祉が他人ごとではないという認識を生み、「無知=知らないこと」による差別を解消する重要な手段となるでしょう。 一方、事業者サイドもまた、行政に頼りきりではいけません。空き家の利活用や、高齢者へのIT リテラシー指導の機会を活かした交流を支えるためのファンド立ち上げを進めてみてはどうでしょうか。 資金面での安心が得られれば、個別の学びの場の制度設計に進むことができます。その際、「手続き記憶」を最大限活用するサービスの場を作っていくことが重要です。認知症になっても、家事や趣味など、「体で記憶しているできること」=「手続き記憶」を上手に引きだしていけば、当事者の自尊感情を大事にしつつ、周りの人たちの無理解を解消していくことができるようになります。自分が必要とされる場所を作っていくことは、高齢者の人間性を保障するうえで、もっとも大事な要因といえます。 事業者が、異分野の人たちを集め、つなぎ、地域福祉の資源とする仕掛けづくりを進めていくうえで、カギとなるのは、ボランティアに偏りすぎないことです。各人の生業、ビジネスが地域資源として生き、かつ一人ひとりの生きづらさを解消していくようなビジネスモデルを創出していくことが求められます。 こうしたビジネスモデルの核心は、福祉と企業の利潤を調和させることにあります。この問題を考えるうえで、高知県の大豊町は参考になります。 大豊町では、行政、商工会、地元企業が連携しながら「御用聞き」を行う、見守り介護システムを開発しました。行政が補助を出すことで、宅配業者が高齢者の御用聞き行い、地元の商店で物を買い、届け、安否確認を行うことで、地域全体に win-win の関係を作りだすことに成功しています。 以上の、福祉従事者のみならず、地域のメンバーがゆるやかに資源を持ち寄って集まる社会では、実践のプロセスで、参加者の間にさまざまな「関係」が生まれます。この「関係」は他者の能力や個性を知る格好の機会を与え、まわりの人たちの生きづらさや困りごとに対する「感受性」を高めていくことでしょう。 同時に、仕事や年齢、障がいの有無にかかわらず対等な立場で交流する場が増えていけば、サービスの利用者であっても、自分の知識や能力を生かしてアシストする側に回る意欲を持てるようになりますし、実際に福祉の現場ではそうした光景が頻繁に見られます。 44))人人をを育育てて、、地地域域をを育育ててるる これまでの提言では、「生活サービス」の「担い手」の存在を暗黙の了解としてきました。ですが、現実には、その担い手をどのように育成していくのかも含めて、具体的に考えていかなければなりません。 近年、主権者教育の重要性があちこちで聞かれますが、福祉のリテラシーを高めるための教育については、あまり指摘されません。 三世代同居が当たり前だった時代であれば、愛する人が年老いて、病におかされ、いなくなることを、日常の暮らしのなかで学ぶことができました。しかし、核家族化が進み、若い人たちが福祉の現実に接する機会は、めっきり少なくなってしまっています。
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