かながわ福祉ビジョン2040(創立25周年記念事業)
55/122

- 55 -業の恐怖から人びとを解放することによって、定時退社や自己実現へのチャレンジを可能にする条件を整えるべきだと私たちは考えるのです。 地域の活動への参加、そして、地域全体を巻き込んだソーシャルワークの成否は、社会保障へのアクセスやベーシックサービスの拡充と切っても切れない関係にあります。なぜなら「必要(ニーズ)」のいいなりにならねばならない限り、私たちが地域のさまざまな活動に参加することなど夢のまた夢だからです。 一方、アーレントは別の著作のなかで、重要な指摘をおこなっています。 「自由であるためには、人は、生命の必要から自ら自身を解放していなければならない。しかし、自由であるという状態は解放の作用から自動的に帰結するものではない。自由は、たんなる解放に加えて、同じ状態にいる他者と共にあることを必要とし、さらに、他者と出会うための共通の公的空間、いいかえれば、自由人誰もが言葉と行ないによって立ち現われうる政治的に組織された世界を必要とした」(ハンナ・アーレント『過去と未来の間』) 以上の指摘が意味するのは、真に自由な状況を獲得するためには、生きる、くらすための「必要(ニーズ)」から人間を解放することと同時に、「同じ状態にいる他者と共にある」状態を作り出さなければならないということです。 私たちが、自治の力をはぐくみ、人と人とがつながりあい、互いが互いを気にかけあう環境を整える社会を構想したのは、私たちが「共にある」ことを実感できるような社会を次世代に残したいと考えているからです。そして、その「共にある」人たちのあらわれの場こそが、共通の公共空間である「地域」にほかなりません。 地域を巻き込んだソーシャルワークの実践は、人間が自由を手にするうえで欠かせない条件となるでしょう。そして、その条件を整えるために、福祉を福祉の世界で、医療を医療の世界で完結させるのではなく、自治という大きなコンテクストのなかに位置づけ直すべきだと私たちは考えています。 主張するのは簡単ですが、これを実践するのは大変な作業です。ですが、だからこそ、私たちはただ提言し、これを投げっぱなしにするのではなく、これからもその進捗を定期的に確かめていかなければなりません。 その積み重ねは、「共同の困難」を「共同の努力」で克服してきた人類の偉大な歴史に、あらたな 1 ページを刻むことになるでしょう。しかし、この私たちの提言は、その 1 ページの最初の一文字を記したに過ぎないのです。

元のページ  ../index.html#55

このブックを見る