- 59 -――つまり、ごく当たり前のことをしているだけということですね。しかし、あおいけあのサービスに追随したくても、できないと感じている人たちは多いと思われます。 加藤さん:多くの人たちは、「介護サービスとはお世話するもの」というイメージにとらわれているのかも知れません。お年寄りが転ばないように一日中椅子に座らせておく、どこのデイサービスでも当たり前に見られる光景ですが、支援する側の私たちがそのようにさせられたらどう思いますか。とても耐えられないでしょ。敷地の塀を無くしたって、認知症のお年寄りが行方不明になることもありません。ここが自分の居場所だと解ってくれているから。 相手のことを自分自身に置き換えて考えてみる、そんな当たり前のことに気づけないのは、「自分たちの仕事はお世話だから、こうすべき」というイメージにとらわれているからだと思うんですよ。だから、僕たちのやっていることが特別に見えてしまうのかもしれません。しいて言えばこうすべきとか、専門職に拘った価値観は排除してきたと思います。だから僕は、スタッフに「こうすべきだ」という指示をせず、現場で必要なことはスタッフ自身で考えてもらっているし、僕自身もその中で一緒に考えているんです。 ――加藤さんを含め、今回、神奈川の先駆事例としてお話を伺った3人は、みな藤沢市内で事業を運営されています。藤沢市だから素晴らしいサービスを生み出せるのでしょうか。 加藤さん:関係ありません。僕たちは他の事業者と全く同じ介護保険のルールに則って事業を運営しています。藤沢市から特別な取り組みの許可をもらっているわけでも何でもないんです。 結果も出していますよ。あおいけあの利用者のほとんどは、介護度が改善されているか据え置かれたままです。普通は介護度が改善される(=低くなる)と報酬単価が下がりますから、中にはそれを歓迎しない事業所もあるかもしれませんが、元気でいられることはお年寄りにとって嬉しいことであり、社会的なメリットにもつながる。だから、自分でできる事は自分でやってもらうし、必要とされる役割があればその機会を持てるようにしています。 ――これからも高齢者の人数が増えていく社会で、今の仕組みや考え方のまま介護サービスを続けていくと、いつか壁に当たるだろうと多くの人たちが気づいていると思われます。一人ひとりがいつまでもその人らしく生きられることが、ますます重要になるのではないでしょうか。 加藤さん:今後、認知症と診断される人の割合は、85歳以上の人の約40%以上、90歳以上では約60%、95歳以上では約80%を占めると予測されています。でも、人は認知症になった途端に何も出来なくなるわけではないんです。「手続き記憶」という、料理や家事といった体が覚えている能力は、歳を重ねただけではなかなか失われない。あおいけあでは、腕に覚えのあるお年寄りがスタッフに交じって料理でも何でも担ってくれています。 いつまでも元気に役割を果たしてくれれば、本格的な介護を受ける人生を先送りできる。そういう自立した生き方が当たり前になれば、高齢者に対する社会保障費の拡大も抑えられるでしょうし、その人自身も前向きに生きられますよね。 ――あおいけあには「菜根や」という和食店が併設し、介護サービスを利用するお年寄りの食事がそこで作られているほか、一般のお客さんも気軽に利用できるお店になっていますね。 加藤さん:ここに料理屋さんがあったら面白そうだな、と思ったのがきっかけです。高齢者に
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