- 60 -とっては栄養状態、食生活の良し悪しが残りの人生を大きく左右します。美味しい料理はお年寄りの意欲を高めてくれると思いますね。食事を楽しみにサービスに通ってくれれば、フレイル(加齢で心身が老いて衰えた状態)の予防にもつながります。それに、お店が来てくれたおかげで出会いの間口が広がったと考えています。介護サービスがある場所にはサービスの利用者しか集まりませんが、もともとあおいけあではスタッフが子連れで出勤できる体制を整えていたので、お年寄りも子どもと一緒に過ごすことに慣れているんですね。そこへ近所の人や若い人もお店を利用してくれるようになったので、更に幅広い年代の人たちが集まる場所になったと思います。 地域にはお年寄りも若者も、心身が元気な人も不自由を感じる人も一緒に生活していますから、多様な人が集うことでお互いの理解が進むのだと思います。特に子どもたちは、近所には色々な人がいるということを小さい頃から当たり前だと思って育ちますから、自然とダイバーシティの意識が育まれます。このことは、未来の地域社会を考えるうえでとても大きな財産になるはずです。 ――あおいけあは、「ノビシロハウス」という賃貸住宅を作りました。ここにも多世代交流の仕掛けがあるとのことですが。 加藤さん:部屋を借りたくても不動産屋の理解が得られずに困っているお年寄りと、まだ経済力が弱くて希望する部屋を借りられない若者、そのどちらにもメリットのある賃貸住宅を作ろうという発想から生まれたものです。1階は、バリアフリー構造の高齢者向け住居になっていて、2階には学生などの若者が住んでいます。若者には賃料を少し安くする代わりに、1階に住むお年寄りに毎日一度の声掛けをお願いし、ソーシャルワーカーの一翼を担ってもらっています。賃貸住宅の向かい側には在宅訪問診療と訪問看護ステーションがありますから、お年寄りは安心して暮らせますし、誰かが気にかけてくれる環境では孤立する心配もありません。 社会とのつながりが有るか無いかによっても、人の人生は大きく左右されるんです。地域にはもともと色々な人たちが暮らしていますが、今の社会は学校や職場といった集団を基本に生活する人が多く、その同質性が当たり前となることで自分たちとは異なる属性や個性、価値観を持つ人を排除しようとしてしまう危険性を孕んでいます。それが、世代間をはじめとする様々な分断を生む一因になっていると思うんです。神奈川県の障がい者福祉施設で起きてしまった痛ましい事件も、このことと決して無関係ではないと思います。 ソーシャルワークが、高齢者に使われている社会保障費の拡大防止につながれば、削減でき
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