かながわ福祉ビジョン2040(創立25周年記念事業)
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- 61 -た費用は子どもたちや若者、子育て中の家族にもっと振り向けられる。未来の社会をそういう方向に持っていきたい、ならば、未来から逆算した発想で今できる事を、それもごく当たり前の取り組みをみんなで始めればいいのです。 ――加藤さんのような、当たり前のことに正面から向き合い、未来志向を持つ経営者が増えれば、介護サービスの世界はもっと変わっていくかもしれませんね。しかし、志を胸に若者が新たなサービスを展開したくても、それを実現するには高いハードルがあると思われますが。 加藤さん:今の仕組みでは、新たに福祉サービスに参入する場合に行政は、「事業者として〇年以上の実績を有する者」という条件を求めています。その時点で若い経営者の参入障壁は高くなってしまいますから、まず、この仕組みを変える必要があります。かながわ福祉サービス振興会では、県内で優れたサービスを実践している団体を表彰する「かながわ福祉サービス大賞」を主宰していますよね。ここに、新しい福祉のアイデアや事業計画を審査する部門を設けて、未来の経営者として表彰する。表彰された人に対しては行政の参入条件を緩和し、新しい福祉サービスの経営者として起業入しやすくなる仕組みを講じることも一つの手です。 それから、現在の社会福祉法人にも変革が求められていると思います。公益に資するという観点から、社会福祉法人には税制面をはじめとする様々な恩恵があるにもかかわらず、未だに旧態依然とした発想で経営を続けている法人が多い。「人生100歳時代」と言われる今、時代とともに高齢者のイメージはどんどん変わっているのに、その変化に対応したサービスを提供できている法人が果たしてどれだけあるでしょうか。現場の変化を感じ取るとともに、時代に適応したサービスと経営を学ぶべきなのは、むしろ経営者のほうかもしれません。 ――将来の社会を担うのは今の若者です。より良い未来が描け、若者が活躍できる環境を整えるために必要なことは何だとお考えですか。 加藤さん:社会福祉法人に求められるものは他にもあります。若い経営者を育てることです。今、介護サービス業界は深刻な人手不足で、将来にわたって法人を経営していくためには優れた人材を確保し、育てていくことが欠かせません。 人手不足の原因の一つに、若者の目に介護サービス業界が魅力的なものとして映っていないことが挙げられます。あおいけあには多くの視察者が訪れ、その中には若者も多くいます。僕は大学で教える機会も持っていますが、若者たちの中には、ソーシャルワークのような地域を変えていく活動に興味を感じている人が少なくないんですよ。ということは、先駆的で魅力あるサービスを実践している現場を目の当たりにした若者が就職し、多くの事例を学んでくれれば貴重な戦力となる可能性があります。そのためにも法人と経営者は変わらなくてはいけない。 そして、失敗を認めることも大事です。やがて経営者になった若者は、はじめはたくさん失敗をするかもしれません。僕も25歳であおいけあを立ち上げてから、さんざん失敗をしてここまできましたよ。でも、今の社会は失敗することに決して寛容とはいえない。失敗してもやり直せる社会は福祉の世界だけでなく、未来の社会を築くうえで必要なのだと思います。 ――2040年の福祉について加藤さんのお考えをお聞かせください。 加藤さん:「Care」という言葉の本来の意味は、「相手の生活がうまくいくように気にかける」ということで、「お世話をする」という意味だけではありません。世の中に何か特別な福祉の街

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