- 68 -藤田さん:他の市町村と比べたことはありませんが、藤沢市に暮らしていて、NPOや市民活動の数が多いのかなと感じています。物申す市民、つまり、「世の中の動きがおかしいな」と感じ取った人同士が声を上げて顔を合わせるという人が多いのかもしれません。市民力が違うというか……。 ――しかし、メンバー個々の特性を重視するあまり、制度サービスとのせめぎあいも起きているのではありませんか。 藤田さん:ありますね。私が事業を立ち上げた頃の障害者福祉制度はもう少しざっくりして、選ぶメニューも少ない代わりに、一事業所で本人の様々な課題を柔軟且つ包括的に看ることが出来たと思うんです。それが今は、事業ごとに役割分担ができ、発達障害など障害種別も細分化されてサービスのカテゴリーに当てはまらなくなる人が出てきました。 最終目標はメンバーの終の棲家を作ることです。既存のグループホームとは違った、家族のようにコミュニケーションがとれて暮らせる場を作りたいと思います。 ――これまで一貫した理念で事業を運営されてきても、時間とともに当初掲げていたものとは異なる目標が見えてくるような変化が藤田さんの気持ちの中にあったのではありませんか。 藤田さん:色々とあります。でも、事業所を設立した当初は、何か社会に対してアプローチしようという理念があったわけではなく、とにかく困っている家族のレスパイトに役立てたいと考えていました。そうした近隣の人たちの助け合いの場を運営してきて、やがて私たちの取り組みが周囲に知られるようになり、遠くから人が訪ねてきたり、講演に呼んでいただくようになりました。実はそこで、自分たちが当たり前のように運営してきた場所が地域から失われつつあることに気づいたんですね。これは、社会を変えないと自分たちの幸福も実現できないと考え、本来の福祉の役割について言語化し、社会に発信しようと思うようになりました。 ――福祉は、人がより良く暮らすため、みんなに必要なものですが、未だに弱者のために施されるもの、社会資源の余裕によって営まれるものと捉えている人が多いのが現実です。藤田さんはかねてから、福祉は経済成果のおこぼれによって営まれるものではなく、人が生きていくベースに福祉があることを強調していますね。 藤田さん:経済成長も科学の発展も、究極の目的は人間の幸せを最大化することです。福祉サービスが契約と経営の時代になり、障害区分や介護度の軽重によって経営効率や生産性を議論する風潮がありますが、それが至上命題になると必ず取り残される人が出てきます。福祉があるから人は支えられ、安心して経済活動に勤しみ、科学の発展に貢献できるわけで、社会インフラのようなものではないでしょうか。 福祉の価値向上を促すため、事業者にとっては増益や拡大という考えとは違った指標を編み出す必要性が、個人にとっては新しい幸福度の指標が求められていると思います。それによって資本主義社会は新たな局面に入り、社会システムそのものが大きく変わる、言い換えれば、福祉が世の中を進化させる可能性をも秘めているということです。 ――藤田さんは、「~してあげるからの脱却」ということもおっしゃっています。無意識に使っているその言葉には、確かに一方的な表現が込められており、片方が優位で、もう片方が劣位
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