- 72 -雄谷さん:地域のために活動している人たちを知るには、町内会の集まりなどに顔を出して地域のキーマンを見つけ、じっくりと話を聞き、色々な人を紹介してもらうことが大切です。 ――住民とのコンセンサス作りに心を砕いていることは何ですか。 雄谷さん:Share金沢を築く以前から、佛子園は様々な地域の活性化に取り組んできた実績があります。ですから、ややもすれば、「佛子園さんが来て、何とかしてくれるだろう」という雰囲気になり、住民主体ではなくなってしまいます。実は、青年海外協力隊の現場でも、若いうちは日本の技術を以て解決できる手法をアピールしてしまいがちで、そうすると、住民主体にならない取り組みは、隊員が帰国した後に消えてしまっているんですね。最初は、佛子園にできることを言わず、困りごとやその原因、解決の方向性について住民の意見に耳を傾ける側に徹することで、あくまで住民主体の地域作りに主眼を置いています。 ――Share金沢では、障害者を支援する福祉施設が住民主体の街づくりの核となったわけですが、福祉と街づくりにはどんな関係性があるとお考えですか。 雄谷さん:福祉は、何らかのサポートを必要とする「社会的弱者」が対象と見られがちですが、それは、人間の一面でしかありません。障害者や認知症の人にも、適切なサポートがあればもっと活躍できることがあります。福祉サービスを提供する側と受ける側という二元論に陥ると、その人たちがどれだけ頑張っても、やっと社会の一員としてスタートラインに立てるかどうかのようなイメージです。しかし、障害者も高齢者も、或いは日本在住の外国人の人たちにもそれぞれの持つ得意事があり、街づくりに貢献し、生きがいを得られる可能性があるわけです。如何にそれらを見出し、地域の活性化につなげるかという観点が大切です。 障害者、高齢者という縦割りではない福祉の現場には、色々な人がごちゃまぜになって集まります。北欧を始め、福祉先進国と言われるも国々でも、今や縦割りの福祉を見直し、色々な人たちがごちゃまぜに関わることが地域を動かす原動力になるという考え方が主流です。 ――様々な取り組みに対して、「それは佛子園だから出来ること」と周囲には受け取られがちかと思います。他の法人が追随しようとするならば、何が必要なのでしょうか。 雄谷さん:私たちは、障害者の入所施設から事業をスタートしました。将来、彼ら彼女らは社会に出て色々な人たちと関わるわけで、そこには高齢者も子どももいる。しかし、社会は障害者を受け入れないだろうと決めつけたり、或いは、専門職の人たちが「ごちゃまぜはいいが、もし、障害者が子どもに怪我をさせたら誰が責任をとるのか」と危惧したりする。まずは、既成概念と縦割りの福祉に捕らわれがちな自分たちのメンタルに向き合うことが必要ですね。 誰だって、色々な人がいる環境の中で暮らすのが自然だし、面白いんですよ。地域の人たちを巻き込む現場を、映像やインターンシップなどを通して知った若者が関心を持ち、佛子園の採用に応募してくれています。元気な人もそうでない人も、楽しく一緒に過ごす現場で働きたいと思ってくれるんです。法人としても大事に育てた人材には長く活躍してもらいたいですから、障害者や高齢者、子どもといった事業を経験することで、人生 100 歳時代を見据えたスキルを身につけてもらえるし、仕事の場が複数あれば、人間関係による離職のリスクも回避できると考えています。ごちゃまぜは、人材確保にもメリットをもたらすと思います。
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