かながわ福祉ビジョン2040(創立25周年記念事業)
74/122

- 74 -性の説明をします。そして、新しく住み始めた人が同じ場面に出くわした時、事情を知っている別の住民が教えてくれるようになれば、佛子園を拠点に障害のある人を地域で見守り、問題が起きたら住民主体で解決する基盤ができてくるんじゃないでしょうか。 私たちの保育園を巣立った子たちは今、二十歳過ぎになり、子どもの頃から関わってきた障害者や認知症の人を支えたいと考え、自ら福祉の仕事に就いたり看護師になったり。或いは、他県へ進学したのち、人との関りが残る地元に戻ってくるような人もいるんですね。障害者や認知症の人がいてこそ支え合う意識が醸成され、地域力は育まれていくと思います。 ――学校でも、福祉に関する教育は必要だとお考えですか。 雄谷さん:私は、生まれ育ったお寺に仏子園(当時)が開設された当時から、障害のある人たちと一緒に風呂に入ったりご飯を食べていました。そういう暮らしの体験には圧倒的な現実味があり、(ダイバーシティとは)机の上で誰かに教えられるものではないのかもしれません。人は、自分と違う要素を持つ人に違和感を覚えがちですが、小さい時からごちゃまぜの中にいれば本能的にそれを理解し、お互いを地域の一員として認めていくわけです。 ――佛子園が掲げる「PLVS VLTRA ―さらに彼方へ―」というビジョンの意味と、職員の皆さんが働くうえで、ビジョンがどのような意味を持つのかについてお聞かせください。 雄谷さん:「さらにかなたへ」というスペインの標語をもとに、私たちの仕事はここまで、というゴールを定めずに次を目指そうという意志を表したものです。地域の問題は次々と起こりますが、それでも negative thinking にならないようにしようという意味合いもあります。 ――20 年後の福祉の在り方と、その実現に必要な条件は何だとお考えでしょうか。 雄谷さん:長生きをラッキーと思える社会ですね。今後、福祉サービスの報酬水準が大きく向上することはないでしょうから、私たちは生涯賃金で他業種と勝負します。法人は、職員が元気で長く働ける環境を整えるために定年を毎年1年ずつ伸ばし、仕事のパフォーマンスが変わらなければ給与は下がらず、働く場の選択肢も増やすと。人を元気にするには、自分も元気でなければいけないんです。そのために、職員自身が健康を心掛け、マルチステージで働く経験を積むことで、人生 100 歳時代の生き方に若いうちから準備できます。 ――佛子園は、様々な地域でコミュニケーションを形成する仕掛けを作っているように思われます。 雄谷さん:障害者福祉には、働く場の創出も必要です。そこには多様な人が関わるので、障害者の職業トレーニングを通して、普段接点のない飲食業者と福祉職とが関わりを持ちます。つまり、彼ら彼女らは単にサポートされているだけではなく、多くの人が関わり合い、知り合うきっかけを作ってくれるんです。もちろん、そこで起きる問題もごちゃまぜで対処します。 健康づくりのため、法人の運営するジムに職員が通うのを見れば近隣の人も足を運んでくれるでしょうし、ついでに飲食店も利用して下されば就業の場=店の売り上げにもつながります。 ――暗い話題があふれがちな日本に、明るい未来はあるとお考えでしょうか。 雄谷さん:高齢者が増えることで、長い人生に裏打ちされた知見や経験が活かせます。障害者

元のページ  ../index.html#74

このブックを見る