かながわ福祉ビジョン2040(創立25周年記念事業)
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実態ですよね。そうした条件の整うケースは、まだまだ少ないのでしょう。 ――在宅ホスピスケアを推進する上で、現在の医療や介護の制度は十分でしょうか。それとも、何か変革すべきところがあるとお考えですか。 山崎さん:ケアマネジャーさんがプランニングして下されば、医療でも介護保険でも必要に応じて患者さんを訪問し、対応できる仕組みになっていますが、介護保険制度には限界もありますので、制度のはざまをどう埋めるのかという課題はあります。そのはざまを埋める一つがボランティアの参加だとも考えています。さらに、問題点を挙げるならば、地域包括ケアシステムが想定している「かかりつけ医」が、外来診療も担う地域の開業医だということです。私も年齢を重ねてきて実感しますが、開業医の多くは一人ですから、24 時間対応で随時往診する負担は大きい。地域包括ケアという仕組みはよく出来ていますが、結局それを支えているのは人間ですよね。過大な負担にならぬよう医者同士で連携し合う配慮がなされればいいのですが、やはり患者さんを理解しているのはかかりつけ医なんです。今では在宅診療を専門とする医師も増えてきましたから、開業医と在宅医がカバーし合える仕組みが整えば、住み慣れた街で最期を迎えるという願いは、今以上に多く叶うと思います。 ――一人だけに負担をかける仕組みは継続しないし、理想にも近づけないということですね。 山崎さん:私たちのチームは、在宅ホスピスケアの一つの形を築いてきた自負がありますが、世に先んじて理想を追い求めようとすれば、初めは献身的な誰かが負担を背負ってしまうのは致し方ない面もあると思います。それを普遍化(=制度化)しようとすれば、みんなで負担を分かち合い、代は変わっても質の高いケアが永続的に維持される仕組みが必要です。ただ、社会の課題をサービスで解決した結果、それが制度化されれば多くの人が享受できますが、一方では、制度化されたものをうまく活用する、つまり、ビジネスの成果だけを追い求める人も出てくるわけで、そうするとケアの質が疎かになる可能性も出てきます。 ――社会で必要とされ、独自に始まったサービスが制度化された途端、玉石混交の事業者が加わることでルールが厳しくなり、当初の志や利便性がスポイルされてしまうという例が、過去にいくつもあったと聞きます。 山崎さん:日本の制度ビジネスを支えている事業体は多くが民間組織ですから、どうしても利益の追求は避けられません。すると、経営層と現場スタッフとの間で(ケアに対する考え方の)ギャップが生まれてしまいます。 私は以前、病院のホスピスに勤務していましたが、制度に基づく職種だけで終末期の患者さんと家族を最後まで支えることは難しいと感じました。患者さんがホスピスで過ごす時間の多くは孤独で不自由なものですが、医療の制度下で病院のスタッフが 24 時間関わることはできません。ならば、話し相手になってほしい、車いすを押してほしい、いや、傍に居てくれるだけでもいいというニーズに応えてくれる人がいて、初めて患者さんの社会性が担保されるのだろうと。福祉が目指す、「幸せに、より良く生きること」をアシストするには、専門職の役割の隙間を埋めてくれる地域のボランティアさんたちが必要なんです。 医療法人がクリニック、訪問看護ステーション、デイサービス、居宅支援事業所のすべてを設立することは可能です。でも、地域のボランティアさんが参加してみたいと思えるのは、大- 77 -

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