かながわ福祉ビジョン2040
設立以来「市民とともに創る新しい公共」の実現に向けて様々な事業に取り組んできました。この間、少子高齢化が進展し、本格的な人口減少社会に突入しました。「人生100年時代」は現実のものとなりつつあり、「福祉」や「公共」「地域」のあり方にも変化が生じています。
そこで、設立25周年を迎える節目に、2040年の福祉を展望した「かながわ福祉ビジョン2040」の策定に取り組みました。策定に当たっては、慶應義塾大学経済学部井手英策教授を委員長とした「かながわ福祉ビジョン2040策定委員会」及び「作業部会」を設置しました。メンバーには学識経験者、福祉事業経営者、民間企業、自治体からご参画いただき、議論を重ね、6つの提言を取りまとめました。
1.地域創成 | 頼り合える社会~誰もが自分らしく生きるために |
2.新しい福祉の創造 | 「福祉サービス」から「生活サービス」へ |
3.住民参加 | 学び合いがつむぐ「共にある心」 |
4.人財育成 | 人を育て、地域を育てる |
5.共創 | 行政よ、事業者よ、プラットフォームビルダーになれ! |
6.基本的な考え方 | 私たちが変わるために大切なこと |
1.地域創成 頼り合える社会~誰もが自分らしく生きるために
想像してください。病気になっても、介護が必要になっても、安心して暮らせる街。誰かを気にかけ、みなが誰かと支えあい、頼りあうことを自然なことと思える街。
それは、けっして「奉仕」と「自己犠牲」の街ではありません。その地域に住み続けるなかで、時には自治会で、時にはNPOで、さまざまな場所を自由に人びとが出入りし、自己実現と、いまの誰かの困りごとと、自分自身の未来の安心とをつなげるために、知恵を出しあう街です。
そんな街ができれば、「頼りあえる社会」となれるのではないでしょうか。
2.新しい福祉の創造 「福祉サービス」から「生活サービス」へ
老後の豊かな暮らしは、福祉のニーズやサービスだけではなく、家族や友人、あるいは趣味や地域活動などとの付きあいかたによっても大きく左右されます。「生活サービス」の視点からは、隣人どうしが一緒に出かける、食事をする、趣味の時間を楽しむといった「関わりあい」をどのように保障していくのかが大切なテーマとなるのではないでしょうか。
3.住民参加 学び合いがつむぐ「共にある心」
福祉従事者のみならず、地域のメンバーがゆるやかに資源を持ち寄って集まる社会では、実践のプロセスで、参加者の間にさまざまな「関係」が生まれます。この「関係」は他者の能力や個性を知る格好の機会を与え、まわりの人たちの生きづらさや困りごとに対する「感受性」を高めていくことでしょう。同時に、仕事や年齢、障がいの有無にかかわらず対等な立場で交流する場が増えていけば、サービスの利用者であっても、自分の知識や能力を生かしてアシストする側に回る意欲を持てるようになりますし、実際に福祉の現場ではそうした光景が頻繁に見られます。
お互いを知りあうことで「共にある心」を育み、関係性が生まれていくのではないでしょうか。
4.人財育成 人を育て、地域を育てる
三世代同居時代であれば、愛する人が年老いて、病におかされ、いなくなることを、日常の暮らしのなかで学ぶことができました。しかし、核家族化が進み、若い人たちが福祉の現実に接する機会は、めっきり少なくなってしまっています。
だからといって公教育をつうじた人材育成は、国や社会の求める人材を強制的に育てていく危険性をはらんでいます。ですから、地域社会を、子どもと大人が相互に学びあう場ととらえ、本来の意味の“care(=気にかける)”を通じた教育から子どもたちが多様性を学んでいくプロセスを大事にすべきではないでしょうか。
5.共創 行政よ、事業者よ、プラットフォームビルダーになれ !
かつてのような経済成長が期待できず、自己責任で生存・生活の「必要(ニーズ)」を満たしていくことが難しくなるなか、これまでの行政主導の社会保障では対応できない地域課題が次々とあらわれています。こうした変化は、行政の役割もまた、変えずにはおきません。それを私たちは、「サービスプロバイダー」から「プラットフォームビルダー」へと表現してきましたが、この変化は、行政という存在を「グランドデザイン(大きな旗振り役)」から「プラットフォームデザイン(基盤を作る黒子)」の主体へと変えることを意味します。つまり、既存のサービスを必要とする人たちに届けることと同時に、地域のアクターが課題解決に挑む「自治」の力をどのように育んでいく時代になっていくのではないでしょうか。
6.基本的な考え方 私たちが変わるために大切なこと
改革の提言をするのは簡単ですが、それを実践していくためには、行政や事業者、そして、福祉にかかわるすべての人たちの意識変革が必要であり、また、改革をさまたげる要因、非効率性を生みだす要因についての検討も行わなければ、実効性のある提言とはなりえません。
一人ひとりが異なる価値観を持つのは、当たり前のことです。そのような多様な主体が自分自身の将来と、地域全体の将来とを重ねあわせながら、同質性や一体性にとらわれすぎない「共在観(a sense of togetherness)」をもてるよう、私たちは未来を見据えねばなりません。
もちろん、すべての問題を一度に解決してくれる魔法のスイッチはありません。ビジョンを持ちつつも、その時々に必要となる目標を柔軟に掲げながら、あるべき未来に向かいつつ、行きつ戻りつを繰り返す、そんな、20年後に向けて絶えず変化し続ける福祉こそが私たちに求められるのではないでしょうか。