内山 順子 「Bon Voyage」
受賞作品
● 優秀賞
入選作品
● 日本画部門
● 洋画部門
● 彫刻・工芸部門
● 書部門
● 写真部門
審査講評
●大賞 審査員長 藤嶋 俊會 (美術評論家)
大賞選考のときはやはり多少気持ちが緊張します。各部門の推薦理由を聞いて絞るわけですから当然です。絞って決める際には、何か他と区別する基準を必要とします。それは予め決まっている訳でもなく、またそれが絶対的ということでもありません。あくまで比較的ということです。
今年の日本画部門、中嶋武「生命力」は、墨で油絵のような描写力を発揮して樹が持っている太古からの生命力を描いています。日本画なら通常このような視角からは描かないと思います。花を主に描くでしょう。
洋画部門、谷浩三郎「コミュニケーション」は珍しく抽象画です。抽象画といっても宇宙空間を表わすような作品で、しかも水彩画なので油彩のような重々しさはなく、親しみやすい画面です。
写真部門、立川明「朝霧に眠る鳥たち」は、北海道の阿寒湖に取材したもので、まるで水墨画のようなトーンと鳥たちの鳴声が聞こえてきそうな作品です。
書は岩田徳華「雨中過韶州」で、雄渾な行書で雨中の旅を描いています。
今年の特別賞は杉崎時秋の油彩「静物」です。
●日本画部門 西松 凌波(日本画家)
まず、今回の応募について、この第17回展までの過去受賞歴の資料があることに敬意を表します。
しかし前回の第16回展までに毎年連続3年間、順次格上げの賞を重ねてこられた方の作品を今年も期待していたのですが、今回は応募がなく、たいへんに残念思いました。その理由はわかりませんが。
さて、本展の大切な審査について、作品を充分に考慮して決まった賞について記します。
はじめに、大賞である県知事賞の作品「生命力」(水墨画)は中嶋武さんで、昨年も優秀賞で「森に生きる」という画題でした。本年のは特に『命』に込める思いが独特のアングルからも感じられ、精緻な描写による表現にグッとくるものがありました。
次に優秀賞で、相模原市賞は齋藤千賀さん。白の立葵三茎を「三姉妹」と題され、素晴らしい快挙です。
そしてもう1点の優秀賞 ラジオ日本賞は昨年の大賞で県知事賞でした清水善之さんの「扉の向こうに」というモダンな構成の作品です。
また、今年の審査委員賞は4回目の受賞で宮﨑弘子さんの作品です。題名は「北の港町」(水墨画)で、やはりアングルの良さが光ります。単なる風景画ではなく、点景としての人物も表現され生き生きととしていて物語性も感じられる力作でした。
奨励賞は第10回展の時に佳作でした千葉青涛さんの「臨海パーク横浜」です。ただ、落款印の位置にももう少し配慮がなされると、もっと良いバランスになると思いました。
いよいよ佳作の作品についてですが、冒頭にも書きましたように、第8回展から第16回展まで5回も入賞され、そして本年もまた佳作で入賞、平井眞一郎さんの「鏡湖池と金閣舎利殿」です。もしも本会に『最多入賞』というような制度が確立されていたら第一にその候補になられる方かもしれないと思ました。
というわけで毎回感心させられております。このような方は今回、3名程いらしたように思います。
そして同じ賞の稲葉邦彦さんの「ブルーライト横浜2」はとても美しくヨコハマのイメージをシンボライズされた表現に魅了されました。
そのほかにも別の賞がもう少しあれば良いなどと思ってしまう作品がいくつかありました。しかし、作品の大きさが少し小さめであったり、構図やアングルにほんの少々の面白みを楽しく追及されたならと思う作品もありましたので、是非来年もまた続けて参加され、ますます生き生きとした感動を絵筆に託して『絵は読むもの』という事も言われますので、ご自分の想いをこの平面表現上に大いに発揮され、多くの方々の参加を心からのぞみます。
●洋画部門 大北 利根子(造形作家)
本年度の洋画部門の出品数は183点で、昨年度より16点増えました。
この部門への出品作の画材は、油彩・アクリル・水彩が多く、全体の9割を超えました。
また、コラージュ作品、額縁も絵という作品も目にとまりました。コラージュ作品は新鮮に見えましたが、技法の面白さに終わっていた点が残念でした。
従来の洋画の基本を大事にした作品がある中で、ご自身の想いをのびやかに表現したものも多数あり、新しいシニア層の参加に大きな期待をもちました。
大賞
『コミュニケーション』谷浩三郎さん
コミュニケーションをテーマに描かれたこの作品は、183点の中では特異な抽象画であったことから賞に選出されました。あふれる情報の中で暮らす現代人(制作者)を描いたのでしょう。現実に感じられていることをご自身の造形に繋ぎ、創り上げられることを今後も期待しています。
優秀賞
『シエナ夏』熱田和博さん
夏の思い出を描いたのでしょうか。安定した構図でシエナの光と影が美しく描かれていました。手前右下の影の色を弱めることにより、奥の路地と車の存在がより活かされたでしょう。オリジナルの額縁は印象的でした。
優秀賞
『冬の運河』金光つや子さん
雪景色に魅せられた素朴な気持ちを丁寧に描き、素直な表現を大切にされている姿勢に共感しました。しっかりとした画面構成の中にも静かな情感あふれる次作品を楽しみにしています。
審査員賞
『マテーラの丘』竹島健二さん
スケッチから描かれたのでしょうか。同系色による巧妙な色使いでマテーラの風景が描かれ、そこで暮らしている人たちの生命力を静かに味わう事ができました。次回はより大きな画面に取り組まれることをお勧めします。
奨励賞
『森の営み』新中和男さん
額縁と絵が一体化した大胆な作品でした。水の白い線を押えることにより広がりのある作品に仕上がったのではないでしょうか。個性的な色彩をより美しく表すために、色の濁りに気を付けられて次回作に挑まれることを期待します。
佳作
『夢の跡』阿部堯さん
迫力のある作品でした。夢はどのように実現したのだろうかと考えさせられました。白い小さな人型が、後から付け加えられたかのように見えない工夫があるとよかったと思いました。
佳作
『根岸ヨットハーバー』浜野四郎さん
身近な風景が丁寧にさわやかに描かれていました。生活を通して出会った光景を描きとどめようと制作に向かわれた様子が窺えました。今後も身近な風景を新鮮な視点で描かれることを期待します。
●彫刻・工芸部門 藤嶋 俊會 (美術評論家)
今年の美術展の応募状況を見ると、70代が約半分を占めていますが、これは近年の文化活動の年齢層の傾向を表わしています。
かつて70歳は古希、すなわち「人生七十古来稀也」といわれ、おそらく周囲を見回しても70代のお年寄りを見かけることは本当にまれだったに違いありません。私たちの子供時代のお年寄りが相当な年配に見えたのは、そのときは子供ゆえに想定できなかったからでしょう。ところが70代になった今の自分自身から見ると、同じ70代のお年寄りは確かに相当な年配に見えるのですが、しかし何と軽々しい存在になったか、こんなではなかったはずだとも思います。おそらくそれゆえに今日の70代は元気がよいのかもしれません。
さて彫刻・工芸の今年の傾向です。彫刻や工芸の厳密な定義を持ち出すと面倒なことになりますが、どんな技術でも技術以上の境地に達した時、技術を超えた雰囲気やオーラといったものが現れてきます。意識しなくても現れてくるものだと思います。常連の出品者にもそうした雰囲気を醸し出す作品が見られます。今回70代の新人と思える出品者の作品、逸見健三の「茅葺古民家「古き良き時代のある日」」は、よくぞここまでこだわって作り上げたと思わせる作品です。屋根を取り外すことも出来るようですが、普段はやはり玄関、あるいは庭から見るものだと思います。電気をつけると奥の方まで見通すことができ、隣家を盗み見するようなスリルがあります。
優秀賞の山田公也「流水文藍彩大皿」は、光の加減で流水文が見え隠れする面白さと手堅い技術がよく溶け込んでいます。
いつも新しい作品を出してくる林れい「光に映るカーテン、百合の花」は、ハサミで様々な種類の紙を切り刻んで貼り交ぜる独特の技法です。雑木林の中で咲き乱れる百合の花は妖しい。
審査員賞の晝川捷太郎「作るっておもしろい!」は、いわば手と頭脳の軽いエクササイズといった作品です。
奨励賞の大田愛子「藤の動と静」は藍の生葉染で、思いきりよく表現しきった感じがします。
佳作は2点、辰井康雄「練込象嵌角壷」は、お洒落な陶器の角壷です。同じく高橋知子「1ケ実ったカボチャ!!実物大!!」のモザイク画は、切り刻んで再構築する手間を楽しんでいる様子が伝わってくる作品です。
●書部門 清水 六穂(書家)
書の出品者の約半数が80歳以上です。書に親しみ楽しむ健康長寿の証として大変うれしいことです。お仲間と筆を持って楽しい一時を過ごしての作品の数々、おのずと微笑ましくなります。ただこの作品を大作しかも永年の経験を積んだ方のものと一緒に審査するのは心苦しいのですが、公募展ですから審査は作品本意で行いました。
今回はハングル文字の作品がありました。書は文字の美、線の深さ、墨色の美、そして全体の調和が大切です。題材、用具、用材が何であっても同じです。いろいろな表現で楽しい作品を作って、来年も是非出品して下さい。
県知事賞は岩田徳華さんの行書作品「雨中過韶州」です。確かな造形と運筆、全体の気脈が墨色の美もあって余白を活かした作品です。次回は少々趣きの違う作品を見せてください。
優秀賞は森俊行さんと渡慶次逸子さんの作品です。
森俊行さんは「平家物語」の冒頭部分を練り上げた全体構成と巧みな筆さばきが料紙、墨の調和と相俟って題材にふさわしい作品を作られました。
渡慶次逸子さんの作品は中国北魏の「元楨墓誌銘」の臨書です。原典の清く強い特色をとらえ、紺紙に金泥で文字、線、気脈の一貫した作品に仕上げました。過去に受賞された隷書、行書の作品にあわせ思い敬服します。
審査員賞は筑峯さんの「蘭亭序」全臨です。書に対する真摯な姿勢が作品全体から伺えます。90歳代にしてこの作品。この意欲と体力に敬意を表し賞します。
奨励賞は青柳智枝さんの「関戸本古今集から」の半切作品です。仮名学書の亀鑑といわれる古筆を半切大に拡大して、自由で変化に富む流動美を十分に表現しました。
佳作の原湘舟さんは7言2句を半切に詞句にふさわしい明るく充実した運筆で爽やかな作品にまとめました。
もう1点の佳作 尚峰さんは歌1首を見事な構成で美しい線と潤渇の美から素晴らしい余白を活かしています。お2人とも過去の出品作品とは違う書体、作風で感服しました。
今回は受賞作品7点半切以上のものでしたが、小品の中に優れたものがありました。が、文字の誤りがあるなど残念でした。筆を楽しく運ぶ時にも文字の形や使い方は正しくしたいものです。
次回も、もっと多くの方々の「心の記念写真」としての書作品の出品をお待ちしています。